「自分のやってきたことがダイレクトに一直線に繋がったわけではなくて、本当にいろんな横道に逸れたり寄り道もしてたんですけど。『あの経験は無駄じゃなかった』って感覚を、同じような立場の方に知っていただけたらいいな。そう思っています」
現在ノヴィータで地域共創事業の主担当を務める笈田さんはこう語る。
ノヴィータは東京の会社だが、最近では地域共創に注力しており、兵庫県豊岡市では女性の就労支援を目的としたデジタルマーケティング講座を受注、担当した。
2019年に立ち上げた豊岡事業所のサポートを担当していたのが笈田さんだ。
笈田さんはノヴィータにジョインした2018年からこれまでの5年間、東京オフィスを訪れたことは数回しかないらしい。
生まれ育った兵庫県神戸市にずっと暮らし続けたまま、在宅勤務でノヴィータの業務に携わっている。
「さまざまな道のりを歩んできた」笈田詩乃さんのこれまでとこれからをお伺いした。
ワークライフバランスを考えた末の離職・専業主婦とワーキングマザーの「壁」
笈田さんは就職氷河期と呼ばれた時期を乗り越え、大学卒業後、まず銀行で働き始めたそうだ。優しい先輩方とチームプレイで働けて楽しかったようだが、銀行員生活は途中で辞めたとのこと。デリケートな質問になるが、退職理由について聞いてみた。
「あまりお話する機会がないので、よくぞ聞いていただけたという感じです(笑)
就職後間もなく結婚しました。子供は欲しかったんですが産休育休をとった女性の先輩方のように頑張り続けられないなと思ったんです。妊娠中につわりで辛くても働き続ける先輩を見て、制度面だけではカバーしきれないものを感じました。
将来を考えた末、『せっかく結婚できたなら家庭を大事にしたい。やりたいこともある。無理してまで仕事を続けるのってどうなんだろう』という結論が出てしまって。
結局キリよく2年で銀行は辞めて、その後派遣で働いている間に妊娠、出産しました」
仕事と家庭の両立は現在に至るまで、笈田さんのテーマの一つになっている。また、笈田さんには持病があり、体調面とのバランスを考えることも欠かせない。
笈田さんは出産後しばらくは専業主婦として家事育児に専念していたが、他のママたちと接するうち、育児と仕事についてモヤモヤとした思いを抱えることがあったそうだ。
「神戸は専業主婦が多くて有名らしいんです。正社員で0歳から保育園に子供を預けてる方に対して、『違う世界の人』みたいな感覚で『すごく大変そう、頑張ってるよね』って話すママさんが多かったように思います。そのあたりに壁を感じることがよくありました」
そんな中、笈田さんは主婦業と並行して通信教育の添削の仕事に7年近く携わることとなる。
「在宅添削で対面ではないのですが、『先生』と呼ばれるんです。『先生』と呼ばれるとちゃんとしてないといけないな、と思うと同時に、ママではない別の世界の自分を持てて世界が広がる。自分にとっては大きなことでした。
でもその話を周りのママたちにはなかなか言えなかったですね。大変とか思われたくなくて。『仕事をしてるからすごい』ていうのはなんだか違うよねという思いを、誰にも言えることなく過ごしていました」
相手のことを思いやらなければ、ラブレターを書くのも人事もなし得ない
その後笈田さんは子供が大きくなるにつれ、再度派遣勤務などを経験。
仕事と家庭のバランスをとるために在宅の仕事を探している時、見つけたのがノヴィータの求人だった。
「応募したのは採用記事を書く仕事です。『ラブレターを書くように』と言われ、非常に腑に落ちるものがありました。
『ラブレターだったら本当に好きになった人に対して、その人の興味関心を考えた上で書くよね。求人票を書くのも同じ。手当たり次第に誰彼構わず声をかけるように書くものではないよ』という話をされたんです。
採用や人事は経験者しかできないと思い込んでいましたが、未経験の自分に対し『採用とは何か』を語られるよりも、『ちょっとラブレター書く感覚で書いてよ』って言われる方が、本質を突いていてチャレンジしやすかったです」
「相手のことを想って書く」
ここに、生徒一人一人を大事に考え返信していた通信添削での経験も活きたのかもしれない。
とはいえラブレターを書くため、求人の要件を知るためには社内事業への理解を深めることは必要不可欠だ。笈田さんは各部門長との連携を進め、Web制作、社内状況への知識を蓄えていった。
求人票を書くだけでなく応募者対応など職域も徐々に広がっていく中、心がけていたことがある。
「ずっと一筋にやってきた専門家の人には敵わないけれど、逆に言えば私は未経験で応募してくる人の気持ちがよく理解できると言えます。応募者側と会社側、双方の思惑を大事に、かといってどちらにも偏りすぎないように……バランスよく対応するようにしていました」
豊岡事業所を通じて気付いた、採用後ケアと傾聴の重要性
人事職と並行して携わったのが、2019年の豊岡事業所立ち上げだ。
「小田垣会長の出身地というご縁のある豊岡での事業ですが、準備段階で私にも『同じ兵庫だし行ってみない?』とお声がかかったんです。同じ県というだけで、神戸と豊岡ってものすごく遠いんですけど。電車の本数も少ないし、神戸から東京に行く時間も、神戸から豊岡に行く時間も大して変わらない(笑)」
それまで全く接点のなかった豊岡だったが、これを期に笈田さんは豊岡事業所の立ち上げに携わり、後方サポートも務めるように。
豊岡での事業のメインとなったのは、女性の就労支援やデジタルマーケティングだ。ノヴィータとして豊岡で採用活動を行う他に、但馬技術大学校や豊岡市と組んでデジタルマーケティング講座も開設。
詳しくはこれらの記事をご覧いただきたい。
地方都市のデジタル人材育成で辿った3年間のあゆみ - NOVILOG
実例で語る「地方自治体が後押しできるDXと女性活躍」の進め方 - NOVILOG
笈田さんは週1回、豊岡事業所のミーティングにもオンラインで出席。
豊岡の人々と接する中で笈田さんは「採用後のケアも考えねば」と意識するようになった。
「やっぱり採用だけでは終わらないじゃないですか。その先には必ず『仕事』があるので。どういう仕事をしていけばいいのか、どう連携をとったらいいのか、社内の人とどう話していけばいいのか、様々な要因でスムーズにいかない時もあります。そうなると、その方の持っている力に期待して採用したのに、力をうまく発揮できない展開もありえます。
実務とは少し離れた部分も含まれますがすごく重要なことです。会社という組織の中で安心して働き続けていただくためにはまた別のサポートが必要だというのを、豊岡事業所の立ち上げで学ばせてもらいました」
その「学び」が、笈田さんが2020年から参加したWendy立ち上げにも活きてくる。Wendyは従業員の本音を聞き取り経営に活かしてもらうためのオンライン面談サービスだ。上司部下の関係では直接言いにくいことも傾聴のプロであるスタッフが社外から第三者目線で丁寧に聞き取り、会社側にフィードバックしてくれる。
豊岡で課題となった採用後のフォローアップに欠かせないものとして、「傾聴」が大切だと笈田さんは気付く。
「人事として行なった全社員面談や、豊岡の方との面談を通して、傾聴の有効性を実感した経験がこのサービスに反映されています。
こちらが大きな働きかけをしなくても、相手が自分で思考を言語化して、整理していく過程を見られる。それが傾聴の良さだと感じますね。
面談する側は解決したい、結論を出したいと思ってしまいがちなのですが、傾聴という手法で相手を主人公にすると、お互いの納得度も高くなるんです」
仕事をしたい方に、それぞれの地域で自信を持って活き活きと働ける道を示したい
2023年現在、豊岡事業所はクローズしているが、豊岡に物理的な拠点を置かなくなったというだけでチーム自体はデジタルマーケティングを担う部署としてリスタートしている。
笈田さんはこれまでの人事・育成支援、復職支援、豊岡での経験を踏まえ、現在では地域共創事業に本腰を入れていくことになった。
「私は、生まれ育った神戸市や兵庫県が好きなんです。ずっと長く暮らしているなら、そこで仕事して生活していけたらいいですよね。地域に貢献したりなにか人のために役立つのって、すごく喜ばしいことだと思うんです。
家族のためだけに動いていると、社会とのつながりが薄くて孤独を感じることもある。でも仕事でも仕事じゃなくても、何かしらで家族以外の役に立っているって感覚も得られると、自信を取り戻してもらう助けになるんじゃないでしょうか」
育児や介護、体調などさまざまな理由で就労できず、働きたくとも条件が合わず働けない方は多数存在する。都市部に住んでいないならば尚更だろう。
神戸から在宅で働く笈田さんの姿と地域共創事業には、勇気づけられる人も多いのではないだろうか。
笈田さんは地域共創に取り組む地域を更に増やせるよう、広報の中根さんと共にマーケティング活動に取り組んでいる。
「『中堅都市で、仕事が減っている。さらに、大都市に出ていくほど距離は近くない』そういう規模の自治体にノヴィータの施策はフィットすると思います。
限られた税収、資金でも最大限良い事業を作り上げていきたい、挑戦したいという自治体の方に、効果が期待できるひとつの施策として提案し、働きかけていきたいです。豊岡の方からも問い合わせがものすごく多いと聞いていますし、既に企画が動き始めている自治体もいくつかあります。
実際に事業にしていくには壁もあるとは思いますが、この取り組みがさまざまな方の後押しになることを期待しています」
取材後記
笈田さんは大学では生涯教育や人権教育について学んだそうだ。
この2つは一見異なって見えるが、「人が自分の望む姿で、自分らしく豊かに生きるためのもの」という点で共通するところがある。
「仕事を通して自己実現したい人々に、活き活きと働いていける方法を提供する」と考えれば、笈田さんの大学時代の学びが、ノヴィータの仕事にも活かされているように見える。
こうやって現在と過去の経験を結びつけるのは、流行りの言葉で言えば「伏線回収」を望む側の、都合のいい考えなのかもしれない。経験が全て実りある一本道を形作るとは限らない。
ただ、「経験」があればあるほど、同じ立場を「経験」した人の気持ちがわかり、共感を持って話を聞けるようになる。
「人事として応募者と会社双方の心情を汲んで、バランスよく対応したい」と話していた笈田さん。
自分の仕事とプライベートの両立だけでなく、応募者と会社、上長と同僚、自治体と事業参加者、講師と受講生……関わる人たちそれぞれのバランスを考え、望む姿で過ごしていけるよう尽力する。それにより良いサイクルが回っていく。
正しい意味での「情けは人のためならず」(人のためにしたことはいずれ、自分にも良いこととして返ってくる)を目の当たりにしたように感じられた。
(インタビュー・文 石林グミ)
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