ノヴィータ会長の小田垣です。
今回は、地方自治体の方から「DX推進・女性活躍」という文脈で質問されることについて、僕がどのように回答しているのかについてお話します。
「ニュースでDX推進と女性活躍推進について言われているのは分かっている。でも、自分たちが住むような地方・田舎で実現するには難しいのでは?」
自治体関係者の中には、そう思われている人もいるでしょう。
しかし、成功したといっても良いと自負している実例があります。
手前味噌ではありますが、兵庫県豊岡市で「働きたい女性のためのデジタルマーケティングセミナー」をノヴィータが委託を受けて担当した事例です。内閣府男女共同参画局の「女性デジタル人材育成プラン事例集」でも紹介されることとなりました。
セミナーの内容は、インターネットの仕組みを学ぶことや情報端末を使い商品やサービスを周知する方法など、デジタルマーケティングの基礎から応用までを学習できるものです。
内閣府の冊子に載ったことによって、地方の自治体でも「DX推進・女性活躍推進」に取り組めるといっても良い事例になったかと思います。
他の自治体の方からも、「そうか!そうやったらいいのか!!」「もっと知りたい。自分のまちでもやりたい!」という反応もいただいています。DX推進・女性活躍を推し進めたい地方自治体担当者の方にとって、弊社ノヴィータの事例や今回の話が何らかヒントになればと願っています。
そもそもDXとは何か?また、DX人材とは何を示すのか
そもそも、世間で言われているDX(デジタルトランスフォーメーション)とは何を示すのでしょうか?
DXとは、デジタル技術を活用することで人々の暮らしや生活を変革し、より豊かにすることを目指す取り組みの総称です。経済産業省がDXを推進することを目的に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」を公表し、認知が広まりました。
ではDX人材とは何か? その名の通り「DX推進を担う人材」のことです。IT分野に精通した人材、すなわち「IT人材」という言葉はこれまでも使われてきましたが、知識があるのみでは足りず、その知識をDXに向けてつなげていくという意味では、IT人材より広い知見やスキルが求められる傾向にあります。
ここまででなんとなく、DX人材という言葉の定義は分かったとしても、次には「DX人材を育成するにはどうしたら良いのだ?」と行き詰まってしまうと思います。ましてや、周囲にそのようなモデルになる人がおらず、接したことがなければ、具体的にイメージが掴めないのは当然です。
僕は、「デジタル技術を使って変化していきましょう」とお伝えすることが多いです。「デジタル技術を使えるように変化していこう!!」ということとは少し違いますから、注意してくださいね。
DXを推進するために「このデジタルツールを導入しましょう」という発想だけで考えていると、表面的すぎて結局のところその導入したツールやシステムを使いこなすことさえできず、予算と労力を使ったのに何も実現できないまま終わってしまうことが多いのではと考えています。
僕が伝えたい「デジタル活用人材」という言葉の定義
「DX人材」を考える以前に、デジタルという言葉そのものが、未知のものに遭遇したような恐れや苦手意識、拒否感につながることが多く、あまりポジティブではない反応がまだまだ多いように感じます。
伝わりやすいように、「DX」の概念をいったん置いておきましょう。そして、より小さい概念である「IT人材」という言葉から考え始めてみましょう。「IT人材」をあえて「プログラミング人材」と「デジタル活用人材」の2つに分けてみます。
以下の説明はあくまで、僕が質問いただいた際に説明する用語を使いながらになるので、一般的ではない部分があることをご了承いただければと思います。
「プログラミング人材」とは、システムをプログラミングをするような、いわゆる技術者に代表される、専門性の高い教育を受けてきている人を示します。個人的な感覚では、「IT人材」と口にした場合、よく思い浮かばれることが多いのがこの「プログラミング人材」です。
一方で「デジタル活用人材」とは、「プログラミング人材」が構築してくれたシステムを活用する人のことです。
いつも自治体の方に説明する際、こんな風に言っています。
例えば、体育館を建てることを想像してみてください。
測量技師、設計士、建築士や大工などのように専業の方、職人さんが携わり、測量や設計などの専門知識をもって完成に導いていきます。これが「プログラミング人材」のイメージに当たります。
このような技術者の方々によって作られた体育館ですが、当然ながら使われないと意味がありませんね。「どのように使ってもらったら市民のためになるか?」「健康増進のプログラムを提供できないか?」「催事やお祭りなどを行う場として提供したら喜んでもらえるか?」などを企画し、体育館を市民に活用してもらうことを考えるのが自治体の職員さんです。これが「デジタル活用人材」のイメージです。
専門知識を持った職人さんが作った体育館。
体育館をうまく活用して市民のためになるようなことを企画運営するのが自治体の職員さん。
そして自分たちの利用目的に応じて、体育館を利用するのが市民の皆さんになります。
要するに、「使いこなす」ということと、「構築する」ということを大きく区分けして説明しています。
さまざまな自治体で「IT人材」のお話をさせていただく際、「使いこなす」「構築する」のいずれなのかが曖昧で、よく定義を取り違えてしまいがちに思います。
「IT人材を育成しましょう。活用し、使いこなしましょう」という話が出てくる時に、専門性の高い教育を受けないと育成することができず、自分たちの身の回りにはあまり存在しないかけ離れた存在と思われることも少なくありません。「理科系の大学を出ていて、プログラムが得意で構築できる人がいないから、私たちの自治体や団体では何もすることができないと思います。」などとご相談いただく場合、このように定義を取り違えてしまっていることがほとんどですね。
システムを構築する際には、確かに「プログラミング人材」が必要です。しかし、「デジタル技術を使って変化する」、すなわちDXのためには「デジタル活用人材」が必要なのであって、プログラミングができる必要はないんです。
先ほどの体育館の話で例えるなら、技術者によって建物が建設された後は、技術者による適切なメンテナンスは必要となりますが、運用は自治体や団体、市民の皆さんに任されますよね。健康増進などの変化を「体育館を使って」実現させるのは自治体や団体、市民の皆さんです。
さまざまな自治体の方から「DX人材」「IT人材」についてご相談をいただく際には、まず上記のように、そもそもの言葉の定義をすり合わせるところからはじめています。
「デジタル活用人材」に適性が高い人は誰か
「IT人材」には「プログラミング人材」と「デジタル活用人材」に分けられますが、DXを推進するにはとりわけ「デジタル活用人材」が重要であるというお話をしてきました。
では、「デジタル活用人材」として適性が高いのはどのような人でしょうか。
大きく分けて2つ挙げられるのではないかと考えています。
- 日常的にスマートフォンやPCを使用する機会が多い人
10〜20代の若年層であるZ世代はデジタルネイティブ世代とも呼ばれ、生まれた時からインターネットに触れることが当たり前になっており、利用機会は非常に高い状況です。
また、30代も該当するミレニアル世代以降では、業務におけるデジタルツールの利用が必須となり、子育てや趣味の活動に便利なさまざまなツールがスマートフォンで利用できることもあり、いずれもデジタルツールを身近に感じている世代であると言えます。 - デジタルツール利用に先入観や抵抗感がない人
1で述べた通り、デジタルツールを日常的に利用している人ほど抵抗感はないと考えられますが、「旧態依然とした組織に所属して、昔からのやり方でしか仕事をしたことがない」という人は先入観を持ってしまいがちかもしれません。
上記2点を満たす人は、「デジタル活用人材」として活躍していただける可能性が高いです。とりわけ、出産・育児により仕事の現場から離れてしまった女性については再就職できていないケースが多くあり、人材不足に悩む企業においては活躍が期待されているうえ、スムーズにデジタルツール活用に取り組むことができる人材でもあります。子育て世代である女性の「デジタル活用人材」としての適性の高さは、実際にデジタル人材として企業に貢献しているケースを少なからずよく目にすることからもわかります。
産休・育休で仕事の現場から離れてしまった女性が「デジタル活用人材」として働くときに立ちはだかる制約とは
しかしながら、産休・育休で仕事の現場から離れてしまった女性が「デジタル活用人材」として働く時には、ご存知の通り大きな制約があります。首都圏や大都市であれば仕事の選択肢が多くあり、デジタル活用も進んでいることが多いため「デジタル活用人材」としてフィットするケースもあるようですが、地方に行くとどうしても仕事の選択肢が減るため、この制約はより強い足かせとなります。
- 時間の制約
都心を離れれば離れるほど、家族の中において女性が家事・育児・介護の担い手の中心となる状況はまだまだ多いのが現状です。そのため、「ちょっと手が空いた時間で仕事をしたい」と考えることがあっても、思うようにはいきません。求人している企業側からは一定のまとまった時間の確保を要求されることが多く、そのような仕事の募集には応募できないですし、短い時間であっても応募できる仕事自体が少ないこともしばしばです。 - 移動距離の制約
1の時間の制約と密接につながっていますが、「ちょっと手が空いた時間で仕事をしたい」「応募してみたい仕事がある」となっても、オフィス等への移動時間が発生することによりさらに仕事のための時間確保が必要となってしまいます。育児等の理由からそこまでは時間を割けないことで、結果的に応募できない仕事ばかりという状態になりがちです。 - 可処分所得の制約
1,2の結果もたらされる制約となりますが、時間的な自由が効きにくく自宅に縛られる状況が多いことから、条件にあった仕事に就けず、自分で収入を得られないことにより、自己投資ができずスキルアップもままならない状況となり、悪循環です。
このように、産休・育休で仕事の現場から離れてしまった女性は、「デジタル活用人材」として適性が高い人が多く見込まれるものの、3つの制約により働くことがとても難しい状況です。特に都心から離れた自治体において顕著に見られるようです。
もちろん、他にも「デジタル活用人材」として適性が高い人は様々なところにいらっしゃるでしょう。ですが、労働人口減少や人材不足が叫ばれる昨今、ベストなタイミングでうまくマッチングするとは限りません。企業が向き合っている事業継続等の観点や、SDGsの考え方からも、このようなギャップを放置して良いとはいえないのではないでしょうか。
また、これら3つの制約については働き手が変えることのできない問題です。企業が変わらなければならない部分であり、就労のあり方の中にデジタル活用を取り入れることで人材難を脱することができる可能性もあると考えています。
自治体と一緒になって、デジタル活用を企業に支援するためのセミナーを開いたりしているのは、こうした問題の解決の糸口を掴んでもらうためです。
受益者利益を最優先に考えた際、自治体が取るべき対策とは
コロナ禍以降、リモートワークやDX推進が急速に進んだ結果、東京を始めとする大都市圏では、育児中の女性が仕事と両立し続けやすくなったり、産休・育休などライフイベントで仕事の現場から離れてしまった女性もリモートワークにより働きやすくなったりなど、環境が整うようになってきました。
しかしながらその状況は、地元の仕事を大都市圏にリモートワークで発注するケースを増やしてしまったところも少なからずあります。大都市圏にはリモートワークに長けた人が多くいますので、大都市圏に住みながら「デジタルで解決することができる性質の、地方に存在する仕事」をこなしてしまいます。
大都市圏の企業でリモートワークを行う人が、地方に移住するケースなどもこれに近いメカニズムです。関係人口が増えるのでその意味では良い話かもしれませんが、その人は「大都市圏に存在する仕事」をしているため、別途地元の仕事を行わない限り、地元の産業を活性化するわけではありません。
本来論からすれば、大都市圏から離れた地域の仕事は、その地域内で地元の人の中から「デジタル活用人材」を育成し、デジタルツールを活用しながら「地元の仕事を地元で行う」ことが理想的だと僕は考えています。
デジタルは難しいからとか、育成するのは手間だからなどと言って負荷のかからない大都市圏への外注としてしまうと、目先は解決しても地元に残るものは少なくなってしまうことを懸念しています。
「デジタル活用人材」として適性が高い地元の人が担えるよう育成を行い、その人にデジタルを通じた課題の解決に行ってもらう、結果として地元の活性化にも寄与することが長い目で見ると大切ではないでしょうか。
加えて、この「デジタル活用人材」を、産休・育休で仕事の現場から離れてしまった女性の中から担うことができれば、「3つの制約」の多くを解消できることが見込めますので大変素晴らしいことです。女性がデジタルスキルを身に着けることで、制約とうまく付き合いながら地方の先進的な企業の課題を解決でき、その受け入れ企業も、人材難に対してひとつの解決手段を持つことができます。
ノヴィータではこの取り組みをすでに進めています。前述した兵庫県豊岡市の事例では、在宅就労や起業を目指す女性を支援したオンライン講座を開催(豊岡市から受託して実施)。受講後、修了生はEC販売に関わったり、サイト運用を受託したりと、リモートワークで働くことを実現している人も出てきました。
デジタルはツールであり、あくまで手段です。ノヴィータは、地域共創事業において、地元の人による地元のための「デジタル活用人材」育成支援を目指しています。
地方自治体の職員の方々が、今回の記事を読んで、少しでもきっかけを掴めた!と思っていただけたらと思っています。
いち事業者の立場で地域共創事業に携わりながら、自治体の人が地元の人の支援やサポートをする「後押し」の役割を担っていることで、地元の人も自治体の人も活気づいているケースが多く、その状態を目指すことが最も重要ではないかと思っているところです。やることさえ見えていれば、デジタルを活用して、地域住民や地域在住の女性が抱える課題を解決することを通じ、自治体の問題解決に向けて歩みを進めることができます。
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