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自治体の課題解決において大事な3つのこと ~兵庫県豊岡市におけるDX人材育成の取り組み~ Vol.2

地方自治体職員の方の中には、職場の長時間労働や進まないDX改革、ジェンダーギャップもいまだに残っている、そんな課題感を持っている方も多いと思います。今回は、自治体でいち早くDX改革やジェンダーギャップ対策への取り組みを進め、成果が出ている兵庫県豊岡市のDX推進部 DX・行財政改革推進課の方々へ取り組みや苦労、今後の展望などを伺ってきました。

豊岡市では、2022年度にDX・行財政改革推進課が設置されました。そこに異動した課長の若森さんが、DX適性(改革特性)が高い市役所職員を定量把握して集め、DX人材育成を目的としたX meeting(エックスミーティング)という取り組みを開始。そのX meetingは、課員の山内さんと伊崎さんが中心となって進めています。
X meeting立ち上げの詳細、およびノヴィータと豊岡市の関わりについては前編にありますのでぜひご一読ください。

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お話をお伺いした方々
豊岡市DX推進部 DX・行財政改革推進課長 若森 洋崇さん
豊岡市DX推進部 DX・行財政改革推進課課長補佐 山内 真弘さん
豊岡市DX推進部 DX・行財政改革推進課主任 伊崎 実那さん

自分の仕事を楽にする工夫を考えて、面白いように変えていく重要性

インタビュアー
山内さんにも、X meetingを引っ張って推し進めていくにあたって意識していることをお伺いしたいです。

豊岡市DX推進部 DX・行財政改革推進課課長補佐 山内 真弘さん

山内
X meetingのメンバーは、部署も性別も年齢もバラバラなので、職域の上下関係は存在しちゃうんですけど、若い人でも意見が言えるフラットであることを一番意識しています。できるだけ多様な意見を交えたいと思っています。

インタビュアー
先ほどの話にもありましたけれども、山内さんは若い方の考えをなるべく大事にしようと動かれてるっておっしゃっていたし、何でそう思われているんですか。

山内
私が入庁したての頃、まだ一人一台パソコンがなくて、複写式のカーボン紙みたいなのに、自分が使ってもいないお金の伝票を手書きで書き写す作業をずっとさせられていました。「これはやばいとこに来たな」と感じました。若手とか関係なく、ああいう作業をしなくていいようにならないと駄目だなと。なぜなら面白くないじゃないですか。仕事とはいえ面白いように変えていかないと、誰も市役所に残らなくなると思っていました。年齢は関係ないですけれど、多分若い人の中にはまだ面白いアイデアとかがいっぱい眠っていたり思いがたぎっていたりして、この市役所の中で発散ではないですが、それを表現できる場所があればいいなと思っています。

小田垣
なるほど。変革したい若い人であるほど、長い間ずっと我慢しなければいけないなら不満げになりますね。

山内
しかし、自分の仕事を楽にする工夫は、本来自分で考えなきゃ駄目で、環境による部分もあるとは思いますが、できることはたくさんあるはず。私も「DXをやるか?」と副市長に呼ばれて聞かれたときに、「なんで僕なんですか?」みたいな話をしたら、「山内はどこの職場に行っても残業していないから」って言われたんですね。それは嬉しいなと思ったんです。なぜかというと、自分で工夫して早く帰って自分のやりたいことをやる、ということをやってきたと自負していたので。

インタビュアー
そういう時に、周りから壁みたいなものを感じたことはありませんか?

山内
周りから残業しろと言われるようなことはあんまりなかったと思いますし、与えられた仕事は時間内にクリアできるようにやり方を考えていたということですよね。残業しないことが評価される組織、時間内に終わらせることが評価される組織がいいと思います。豊岡市役所の中でも、職場の状況にもよるんですがX meetingに職員を出したくない、出せないという上司もいますので、出たい職員がいるのに出てこられないことが無いように、お願いしに行くのも自分の仕事だと思っています。

小田垣
一般的には若森さん、山内さんのような上司は職場にはいないと思うんですよね。若い人の話を聞かなきゃいけないよねと言いつつ、「市役所の業務はそういうものだから」と片付ける方のほうが多いと思います。若い人たちの不満は、下の人からはどうアプローチしていけばいいのか。

山内
ボトムアップは難しいですよね。業務改善のためのヒアリングをしますが、下の人から変えるのはなかなか難しい。

伊崎
言いにくいですよね。若い人って上司に向かって今やっていることを変えたいとか。DX課に相談がくると、一人の意見だったのが複数の意見になって、「DX課の意見です」になると上司に提案や交渉しやすくなると思っていて、DX課が声に出して変えていく役割を担っていると感じています。DX課が他の課の人に対して、外部アドバイザーである小田垣さんのような立ち位置になれれば、うまくいくのではないかなと思います。

豊岡市DX推進部 DX・行財政改革推進課主任 伊崎 実那さん

山内
業務改善のヒアリングも「今回はカウンセリングみたいだったよね」で、終わるときもありますね。ボトムアップはなかなか厳しいです。私たちDX推進課の職員が直接手を動かして、半ば強制的に担当部署の業務改善を進めたり、もちろん担当部署で自主的に業務改善が展開する場合などもあります。私たちが、不満をヒアリングして共感をして寄り添うだけであっても、これはこれで大事なことではないかと考えています。

信頼を得られれば様々な改革がやりやすくなる。自分の手元から始めよう

インタビュアー
豊岡市では、ジェンダーギャップ対策、DX推進など世の中の流れを結果的にうまく使いながら、改革を進めたところもありますが、何か発端がありましたか?

若森
市長のトップダウンがありました。その時も反対意見がでましたが、論理的でなおかつ作戦としてうまくいきそう、面白そうなものを打ち出したという意見も出て、それを実行するパッションがありました

小田垣
そういったキーマンがいたから実現できた部分もあるのですね。他の自治体で変えていこうみたいにやるとしたらどんな壁が発生しますかね?

若森
ありがちなのは、「私たちはうまくいっているのに何を変えないといけないんですか?」となること。例えば、「長時間労働の良いところなんてあるのですか?」と聞いたとしても、「昔からこうです」となる。そこをどう崩していくか。

小田垣
問題意識を感じる人にしか刺さらない話ですよね。若手の職員へ今の話を伝えるならなんていいますか? 現状に不満がある若い人であればあるほど、人生の残り時間が多い人ほど、上の人や組織に我慢しなければいけないなら辞めようと考えてしまうと思うのです。

若森
まずは、四の五の言わずに自分の手元の仕事を自分で変えていくことから始めようと助言したいです。私は豊岡市役所に入って1年目に、市営住宅の家賃を算定する業務を担当したのですが、手書きで収入から所得に換算する計算をしていたんですね。それを当時Lotus 1-2-3(ロータスワン・ツー・スリー)を使って表計算したんですよね。今のExcelみたいなものですね。

インタビュアー
Lotus 1-2-3懐かしいですね。これを使って間違いのない計算式が組まれたんでしょう? 結果が明確ですよね。どんな評価だったんですか?

若森
明らかに短時間で仕事が終わってミスもなくなってるし、周囲からの評価が高くなっていきました。そういうことをやっていると、「若森ってちゃんとやるよね」となって、「次はこの仕事をしたい」と希望したらすっと通るようになります。根性論や感情論なんかでは否定されないぐらいのインパクトを与える仕事を、工夫してやっていました。

小田垣
若森さんが来たら、業務はスマートになっていきますね。若い人の中には、上から教えられたら、違和感を持ちつつも当たり前と思ってやっている業務もあるんですかね。

若森
ストレス耐性の強い人は、そのまま我慢してしまうかも。

小田垣
そうですよね。我慢できてしまう人たちと一緒に硬直化してしまってるのですよね。
自治体っていう上意下達がとても強い組織において、豊岡市は市長をはじめとするトップも一緒に変わろうとしている。そして、変わりつつあるっていうのが他の自治体へ見えるようになってくると確信しています。
そうなるとますます豊岡市が注目されるようになる。本当に変わっていく行革をやっている豊岡市っていう注目のされ方をして、他の自治体にいる若手の職員さんから実際に、山内さん、伊崎さん宛に相談がくる。そういうことが当たり前に起こってほしいと僕は思っています。

勉強して、考えて、話を聞く。目指す姿を伝え続けると、信頼できる情報や人にたどり着く

小田垣
あと、話を聞いてて、若森さんは部下を管理しようという風にあんまり思われてないような気がしていて、任せるというキーワードからも、管理しようっていう管理職じゃなさそうだなって思ったんですよね。

若森
はい、管理しようとは思ってません。豊岡市役所DX推進課が目指す姿を実現するために、この人たちのリソースをどうやって使おうか。この人たちにどうやって活躍してもらおうかとしか考えていません。どうやってこの人たちのスキル、できることと時間をやりくりして、僕たちが目指していること、DX推進戦略の目指す姿を達成するかしか考えてないんです。

(左)豊岡市DX推進部 DX・行財政改革推進課長 若森 洋崇さん
(右)豊岡市DX推進部 DX・行財政改革推進課課長補佐 山内 真弘さん

小田垣
まさに経営という言葉がしっくりきます。

若森
これからの時代、残業時間が減ることや、仕事がデジタル化されることを否定する上司はまずいないはず。そのためには、色々とある中でも、まずは自分で勉強しようと言いたい。

インタビュアー
IT化の促進も世の中の流れですよね、まずは自分の手元から変えられることに着手して実現する姿を周囲に見せる。認めてもらう仕事をするのはとても大切ということですね。

若森
そうです。まず自分で勉強してやってみて、取り組んだ業務や範囲が良くなったら、それに関連づけて自己申告を書いて、こういう研修に行きたいって、ストーリーを書いていくっていうところからスタートしてください。それをやっていると、よっぽど腐った組織でなければ評価してくれます。評価されると、自分でやりたい仕事へ行きやすくなっていきます。

小田垣
若森さんは外部の情報をうまく取り入れられているじゃないですか。どうやって外部視点を得てきて、どんなふうに外部の人を見つけてきているのですか。

若森
一生懸命そのことを考えていると情報が入ってきて、より良い情報がつかめるようになります。そして、信用できる人に何で困っているのかをちゃんと伝えています。こうなりたいんだけど「いまここ」なので、解決策が自分たちでは見いだせないと伝えると、解決できそうな人を連れてきてくれたりします。小田垣さんとだって、当時の副市長からの紹介で出会いましたし。

インタビュアー
現状の課題とこうなりたいとかの理想の間にあるギャップを捉えていて、どう解決すればいいかソリューションが見えていないから、教えを乞うということですね。

若森
いい加減な人を他者に紹介する人は、他者から信頼されなくなります。言い換えると、信頼できる人は、自分が信頼できる人しか紹介しないものです。こうなりたいけど、解決策が分かってないって言えば、ちゃんとお勧めの人を紹介してくれます。繰り返しですけども、目指す姿と、今こんな感じなんですよ、という2つの間にある差をちゃんと伝えることです。

インタビュアー
外部の人とうまく付き合っていくポイントは何かありますか?丁寧に対応してくれる人かどうかでも大きく変わってきますよね。

若森
「こんなことできますよ」というコンサルタントはいっぱいいるんですよ。向こうはプロだからすごい専門知識を知っていらっしゃるのだろうけど、こっちは素人だから話が全く通じない。こっちがそこまでいければいいんだけど、残念ながらなかなか行けなくて。だから、僕ら職員の地面の高さまで降りてきてくれるかは大事ですよね。

なかなかそこに降りてきてくれる人って少なくて、僕が組んだ中でもやっぱりその手前で止まっちゃう人が多い印象です。小田垣さんの場合、最先端を知ってるし、やってるし、その上でここまで降りてくるってなかなか貴重ですよね。小田垣さん自身ができなくても様々な人を紹介してくれるし、色々な事例を紹介してくれますよね。

小田垣
キーワードは「信頼感」だと思います。いろんな事例を紹介しても、伝えたかった本質を理解してもらえて、本質を抽出して事業に活かしてくれる人だと私も仕事がしやすいですね。

若森
要は高いスキルとすごい知識を持っているのに、僕たちの目線まで降りてきて、話し合える。そういう人選びが重要だと思います。

豊岡市役所の会議室「B-room」で行われた取材の様子

自治体の課題解決にあたって、豊岡市の事例におけるポイント3つ

これから自治体の課題を解決していきたい場合、豊岡市の考え方ややり方は参考になるのではないでしょうか。地方自治体が改革を進めるにあたって重要なポイントが、取材の中でいくつも見つかりました。ポイントをまとめると、大きく3つあります。

1つ目、まずは、何かしら解決策を講じる中で、自分たちだけでは解決できないという現実に向き合うこと。

豊岡市では、女性の回復率(10代で転出した女性が20代で豊岡市に帰ってくる率)の向上を目指していましたが、女性が4人に1人しか帰ってこない現状に向き合う必要がありました。そこで、ジェンダーギャップ解消のために外部の人の意見を聞き、力を借りて、業務の細分化で生み出される超短時間勤務という仕組み作りや、子育て中の女性に向けたセミナーなどの開催を行い、女性の働きやすい場所を作ってきました。

2つ目、現実に向き合い施策をアップデートするためには、信頼できる人に信頼できる人を紹介してもらうなど、外部からも協力を得ること。困っていること、解決したい課題を理解し、よい方に導いてくれそうな人に正確に伝えること。

豊岡市では、さまざまな外の声を聞いて改善策を講じてきました。
例えば、地元の産業である鞄屋の社長に話を聞いたり、旅館の人手不足課題があるときは、旅館の経営者20人ぐらいに話を聞きに行っています。市役所内のみでは正しいゴールにたどり着けないのではと思っていた時に、正しいゴールを知っていそうだと思われる、各ジャンルのトップに話を聞いてみようと動いています。

動いてみたところ、成果に向き合う経営者がやっていることや考え方は概ね同じようなことだと気づかれて、それを市役所で活かすことを取り入れ実行しています。

3つ目、一緒に課題を解決している外部有識者の人選は、自治体の課題に対して、専門的な知識を用いて考えてくれるだけでなく、同じレベルまでかみ砕いた説明で理解させてくれて、根気よく伴走・アシストしてくれる人が望ましい。つまり自分達と同じ目線まで降りてきてくれる人と一緒に改革に向かって動くこと。

今抱えている課題の、As Is「現在の状態」とTo Be「理想の状態」を明らかにすることで、ギャップになっている部分が取り組むべき課題だと明らかになります。
たとえ素晴らしい専門家であっても、課題に対して専門用語を多用するなどして、知識がない側が内容を理解できないような場合、一緒に仕事をしてもうまくいきません。
また、課題の規模が小さくても一緒に気持ちよく取り組んでくれる方でなければ、課題感を話しあえず、取り組むべき課題が明確にならないので、改革は進まないでしょう。

そういう意味で、知識が少ない側の「レベル」まで降りてきて、丁寧にわかりやすく説明してくれる人が、手を組むべき外部有識者です。

同じような悩みがあり、よりよくしていきたい気持ちはあるが、どうやって一歩を踏み出したら良いか悩ましい自治体職員の方々の参考になれば幸いです。
今後もノヴィータがご支援する過程で、豊岡市のDXや、X meetingでの変化をできるだけNOVILOGでお伝えできればと考えています。



 

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