キャパオーバーが続くと社員は倒れるし制作チームは潰れかねない
こんにちは。ノヴィータの小山です。
フロントエンドエンジニアのチームのマネージャーをしています。
私はWEB 制作の業界経験が15年近くありますが、多くの制作の現場では今なお残業が当たり前であり、いつも夜遅くまで仕事をしている社員が何人もいる、というのは珍しくない光景だと思います。
かくいうノヴィータもそのような状況だった時はありますし、私もオーバーワークで体調を崩した経験があります。
何故このようになるかというと、
- WEB 制作(特に受託)は不確実性が高いプロジェクトであり、かかる工数が読みにくい
- WEB 制作に必要な専門性を持った人材が相対的にとても少ない
- タスクとリソースの管理は地道な努力の積み重ねであり、「誰でもお手軽に」できるとはいかない
- 何割かのマネージャーがチーム内のリソース管理を軽視している
この辺が大きな要因なのかなと考えたりしています。
さらに言うと、働きすぎの状態が続くとキャパオーバー(その人の仕事の許容量を超えた状態)の社員が多くなります。
キャパオーバーした人は正常な判断がしにくくなってしまうので、その人のメンタルの心配は当然として、それだけでなく以下の事象が起こりえます。
- サービス品質・成果物の品質が著しく損なわれる
- 既存顧客からの継続的な受注ができなくなる
- 収益を安定させることが難しくなる
このような流れがありえるので、多くの制作チームは、いずれ解体につながりかねない可能性をはらんでいます。
しかし、WEB 制作の現場も様々あり、先に挙げたものはあくまで一般論です。業界が成熟してきたことや、時代の流れもあって、キャパオーバーを起こさないよう努め、成功している事例も沢山あります。
スペシャリストを多く集めることで解決している事例もあれば、圧倒的な営業力と交渉力で解決している事例もあるでしょうし、私たちのチームのようにタスク・リソース管理を徹底して解決にチャレンジしている事例もあります。
今回は、制作チームが生き残り、高いサービス品質・成果物の品質を維持するために必要なタスク・リソース管理の考え方について書いていこうと思います。
なお、受託制作の現場を主眼においた書き方にはなりますが、ある程度は他の業種でも当てはまる内容も含まれると思ってます。
何故リソースの管理が重要なのか?
最初に、リソース管理の重要性について説明します。
「リソース」とは狭義のリソースであり、単純にいうと時間のことだと定義します。例えば5人のチームなら、1営業日あたり5 ✕ 8 = 40時間のリソースがあるとしましょう。
では何故、制作チームでのリソース管理がそこまで重要なのでしょうか。
それは、
- オーバーワークを続けたら、人間は鬱になり倒れてしまうから
- 期待されている品質を担保できなくなると仕事を依頼されなくなるから
- 営業のリードタイムを短縮しリピート率を上げることができるから
です。
オーバーワークを続けたら、人間は鬱になり倒れてしまうから
マネージャーがリソースを管理しなければ、オーバーワークを続ける社員が生まれ、気がついたら体を壊して倒れてしまいます。
メンバーのヘルスケアは何より大切です。
真面目な人は基本的に上長の期待値を満たそうとする人が多いので、マネージャーがリソースを管理する意識を強く持たなければ、無理をして働き続けてしまう社員というものが一定数、生まれるものです。
そういった社員に対し、明日でも大丈夫な仕事しかないのならば「今日は切り上げて、家に帰ってネトフリでも観てろ(あくまで例えです)」と言わなければなりません。マネージャーはリソースの状況に目を光らせておき、より適切な所作を促す必要があります。
リソース管理は社員一人一人のセルフマネジメントにおいて成されるべき、という考え方もありますが、個人的には理想論でしかないと思っています。前述の理由からリソース管理はマネージャーの重要な仕事の一つであると考えます。
期待されている品質を担保できなくなると仕事を依頼されなくなるから
制作チームの納品物には、必ず「期待される品質」が存在します。その「期待される品質」を維持するためには「リソース(時間)」が必要です。
一例として「素晴らしいデザイン」を作るためには、下記が必要になります。
- 十分な情報収集 / 素材選定をおこなう「リソース(時間)」
- レビュワーによるフィードバックと改善をおこなう「リソース(時間)」
- アクセシビリティ基準を満たすかどうかの測定をおこなう「リソース(時間)」
「期待される品質」維持のためにも、前述したリソース管理が必要になるのです。
営業のリードタイムを短縮しリピート率を上げることができるから
リソース管理が徹底されていると、「◯◯の期間で案件があるんですけど空いてますか?」という問い合わせに対して、その場で即答することができます。
誰がいつ、どの期間でリソースが空いているかが常に把握できているため、検討期間を挟むことなく回答することでリードタイムを短縮できます。
このように明確な回答ができることに加え、前述した「期待される品質」を担保するためのリソースが正確に確保できることから、安定した品質を保つことが可能です。
そうなると当然のことながら、顧客からの信頼度は上がり、リピート率を上げることに繋がります。
色々と書きましたが、要するにリソース管理とは、特に受託制作をおこなう上では生命線といっていいほど重要なマネジメントタスクであり、これがまるでできていないマネージャーが率いる制作の現場というのは遅かれ早かれ潰れる運命にあると私は考えています。
どのようにタスクとリソースを管理するのか?
業務とは、フロー上に存在するタスクの連続です。そしてタスクは、「漏れなく」「適切なタイミングで」対応することが必要です。
タスクが漏れてしまうということは、すなわち業務の遂行や完了に影響することなので、タスク単体でも管理が必要になります。
タスクを連続的かつ、適切なタイミングで進めることに対し、勤務時間やスケジュールを踏まえて考えていくのがリソース管理なので、密接に関わりがあります。
では、具体的にどのようにタスクとリソースを管理すればいいのでしょうか。
基本的には今持っているタスクと将来発生しうるタスクを全て洗い出してリストアップし、合計時間を計算した上で適切なタスク量になるように調整していくだけです。
(これは個人でもチームでも同じです。)
その全てを書いていると本が一冊できてしまうため、ここでは要点を絞って必要なスキルをまとめます。
重要なスキル.1:プロセス分解能力
例えば「LP をデザインする」というタスクが発生した時に、「LP をデザインする」とタスク管理ツールに書き込んでいるようではリソースは管理できません。「LP をデザインする」の中に、もっと細かいタスクが含まれているのです。
- LP をデザインする
- 案件概要のインプット(30分)
- ヒアリング事項の洗い出し(30分)
- ヒアリングMTG の実施(60分)
- 参考デザインを探す(60分)
- トンマナ設計(120分)
- …(続く)
これぐらいの粒度まで分解する必要があります。
そうしなければ、タスクにかかる正確な時間を予測することが難しいからです。
また、一日の業務時間の間には打ち合わせや諸々の庶務など、主業務となるデザイン以外のタスクが必ず割り込んでくるため、上記のようにタスクを分解しなければ何をどこで行い、いつタスクを完了できるのか予測を立てることが難しくなってしまいます。
重要なスキル.2:工数見積り能力
これは当然ですが、一つのタスクにどれぐらいの時間がかかるのか、その予測が正確であればあるほどリソースの管理も正確になってきます。
しかしこの工数見積りというものは意外と複雑なプロセスであるため、一長一短に身につくものではありません。
例えば「パエリアを作る」という料理タスクにかかる時間を見積もるためには、そもそもパエリアに必要な材料と調理工程の全てを把握していなければ不可能です。
これは前述のプロセス分解と予実の工数比較を繰り返しつつ、徐々に身についてくる能力であり、まだ経験値が低い社員には難しいものです。
(そういう面でも、リソース管理には経験豊富なマネージャーの助けが必要です。)
また、適切なバッファ(時間などのゆとり)を積むことも工数見積りには重要です。
不確実性コーンの話が有名ですが、見積りが行われるプロジェクト初期では、初めから全てを予測することなどできません。
このバッファの取り方の正確性も、やはり経験とともに身につく能力です。
以上、重要なスキルとしてはここまで書いた通りなのですが、結局のところ、このタスクのリストアップ・分解・調整という地道な作業を毎日のように継続できる人が、とても少ない。
それこそが真の課題であり、継続力こそが実は最も重要なスキルだと個人的には思っています。
結局は真の課題と向き合うしかない
「継続力こそが最も重要な課題」と聞くと、随分と話が抽象化されたように感じる人もいると思います。
とはいえ、やることは極めてシンプルで、
- タスクを洗い出す(棚卸しする)
- タスクの工数を見積もって合計時間を計算する
- 毎日が適切なタスク量になるよう調整する
ただただこの繰り返しを毎日やるだけです。
(毎日やるだけ、と書いてしまうと単なる根性論で何の役にも立たないアドバイスですね。)
このシンプルなプロセスをいかに継続するか、というのが最大の課題なのですが、それについてはタスク・リソース管理の範疇を超えた話になってしまうので、今回はここまでにしたいと思います。
この業界に長くいると「制作会社の◯割は創業から◯年以内に潰れる」というようなデータをよく目にするのですが、それはこの真の課題の解決が難しいからだろうなと思ったりもします。
なにも「タスク・リソース管理の徹底」だけが制作チームが生き残る手段ではないと思います。ただ、「タスク・リソース管理の徹底」は比較的わかりやすく誰にでも手をつけることができ、様々な好影響が見込める手段です。
継続することも容易ではありませんが、「残業ばかりだが改善の仕方がわからない」と悩んでいるチームのマネージャーは是非、力を入れて取り組んでみてはいかがでしょうか?
まずは半年実行して振り返ってみてください。成果はあらわれてくるものです。継続こそ力なり。当たり前ですけれど、オススメします。
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