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舞鶴で「デジタルマーケティング講座」が成功した理由~京都府舞鶴市のデジタル活用~ Vol.1

京都府北部に位置する舞鶴市で、2023年に初めて実施された「デジタルマーケティング講座」。初めてにもかかわらず、受講生たちの熱意が伝わるほどの成功を収め、運営に携わるノヴィータ内でもその反応に驚きの声が聞こえてくるほどでした。

そこで、その熱量を紐解くため、「デジタルマーケティング講座」を中心とした市役所の取り組みを軸に、舞鶴市の取り組みを多方面から取材しました。第1弾は、市役所の活動について、第2弾は、舞鶴商工会議所商業部会の活動について第3弾は、民間の活動についてお話をお聞きしてきましたので、3部作としてご紹介します。「舞鶴市では、もともとあった官民の協力体制に対し、デジタルがうまくつながっていた」のが、取材を終えての大きな気付きでした。

今回の記事では、「デジタルマーケティング講座」に取り組まれた舞鶴市役所の方々へ取材しました。どのような思いや背景があったか、舞鶴市特有の地域性やデジタルへの先進性についてもより深掘りできたので、ご紹介していきます。

今回の取材対象者
舞鶴市市民文化環境部人権啓発推進課 男女共同参画担当課長(当時) 堂田 久美さん
舞鶴市産業振興部産業活力課 課長 後 厚史さん

今回の連載 <京都府舞鶴市のデジタル活用>

 

デジタルマーケティング講座について

ノヴィータは、2006年の設立時からの主力事業であるWeb制作・運用事業だけでなく、オンデマンド教材を用いたデジタルマーケティング人材育成支援を中心とした、自治体や地域の発展につながる地域共創事業を行っています。
パソコンやスマートフォンを使って、商品やサービスなどを紹介し、売上を増やす「デジタルマーケティング」の基礎から実践までのスキルを身につけるセミナー内容で、セミナー修了後は、インターンシップで実践的なスキルを学ぶ講座内容となっています。「デジタルマーケティング講座」では、デジタルマーケティングスキルを身につけた人材が地元企業に就職することで、在宅勤務を行いながら、地元企業の売り上げや認知度アップに貢献することが期待されます。これは、地元の人が地元で就業する地域循環型モデルの実現を目指すものとして位置づけています。

デジタルマーケティング人材育成の講座は、兵庫県豊岡市で2021年にスタートしました。
兵庫県豊岡市で行われた「女性のためのデジタルマーケティング講座」は、デジタルマーケティングのノウハウや技術を取得した女性が、地元で就職や起業といった就労を獲得し女性デジタル人材の輩出と地元企業とマッチングできる事業を通じて、デジタル人材の地域への定着を図るものです。
この事業は、2021年に内閣府男女共同参画局の女性デジタル人材育成プランの優良事例として取り上げられました。おかげさまで全国の自治体から多数のお問い合わせをいただき、現在では複数の自治体で提供、合計50名近くの方に受講いただいた実績があります。

「地元による地元のための」「継続する」デジタル人材育成支援となるよう、数年間連続で開催する中で講座を通じて各自治体内でコミュニティを育み、あわせて地元企業への就労促進を実施する点が強みになっています。

舞鶴で行った「デジタルマーケティング講座」

京都府舞鶴市で2023年、2024年と2年連続して開催している「デジタルマーケティング講座」。豊岡市で提供している講座と同じく、パソコンやスマートフォンを使って、商品やサービスなどを紹介し、売上を増やす「デジタルマーケティング」の基礎から実践までのスキルを身につけるセミナー内容で、セミナー修了後は、インターンシップで実践的なスキルを学ぶ講座内容です。

2023年に「デジタルマーケティング講座」の導入と運営に尽力されたのが、市民文化環境部人権啓発推進課(当時)の堂田さん。また、デジタルマーケティングの知識を活用した地元企業でのインターシップ導入に向け、舞鶴商工会議所商業部会へ働きかけたのが、舞鶴市産業振興部 産業活力課の後さんでした。

堂田さん、後さんが部署を超えて市役所内でうまく連携を図ったことが、講座開催の実現に至りました。舞鶴市での「デジタルマーケティング講座」は2023年の1回目から受講生からの評判も良く、熱意あふれる受講生が受講くださり、大成功を収めました。

舞鶴市「デジタルマーケティング講座」開催の経緯

堂田さんは2021年に男女共同参画課の担当者になられました。取材当時(2024年7月)は異動されて違う部署にいらっしゃいますが、2021年当時は、人権啓発推進課、すなわち男女共同参画部門のご担当者になられたばかりでした。舞鶴市内で「デジタル関係で何か事業化できないか」という構想は以前からお持ちだったそうです。

そんな中、内閣府男女共同参画局が発信する、官民の優良事例をまとめた事例集を見つけ、豊岡市の「女性デジタル人材育成プラン優良事例」が目に留まり、お話を聞きたいと豊岡市へ視察に行かれます。

舞鶴市市民文化環境部人権啓発推進課 男女共同参画担当課長(当時) 堂田 久美さん

2022年、舞鶴市の男女共同参画センターを活用して、堂田さんにより「1日預かり事業」が開始されました。この一時預かり事業があることで、「デジタルマーケティング講座」を受講中に子どもを預けながら学びたいお母さんも受講できるのではないかと考え、講座では子どもの託児もできるように設計します。

堂田さん「働きたいなって思っているお母さんとか、すでに働いているお母さんたちのお話をしている中で、お子さんのお世話をしながら、何か自分のスキルアップしようと思うと大変だなっていうのを助けたいなという思いで始めたんです」

自衛官のご家族が多い土地柄

舞鶴市は人口8万人の地方都市ですが、舞鶴港は湾内が広く、周囲を山々で囲まれた防御に適した地形となっていることから、今から約120年前に海軍鎮守府が設置されて以降、軍港として発展してきました。今では、海上自衛隊の基地と海上保安庁の本部が置かれており、自衛官や海上保安官が多い土地柄です。

自衛官や海上保安官は職種柄転勤が多く、その時期も定まらないことがあるため、ご家族の方の中には、仕事を始めたいがなかなか特定の会社に就職することは難しいという話が聞こえるそうです。そんな中で、デジタルを活用した仕事は在宅でもできるし、学びも本格的なので、お子さんがいるママでも一時預かり事業で子どもを預けながら学べ、スキルを身に着けたら転勤した後でも働けるメリットがあるので、お母さん方のニーズとも合うのでは?と堂田さん、後さんは考えておられました。

令和4年7月に「人口減少時代の人材活用フォーラム」を舞鶴市で開催

地方自治体で女性活躍に成功している豊岡市の事例を参考に、2022年7月、「人口減少時代の人材活用フォーラム~持続可能な地域、会社のために。多様な人材を生かすには~」を開催しました。
「将来にわたって活力ある舞鶴を維持していくために、現在、働いていない女性をはじめとした多様な人材を活用した働き方について考えるとともに、誰もが働きやすく、働きがいを感じることができる会社づくりを目指すことの大切さについて市内事業者等と共に考えるフォーラム」です。

改革を進められた豊岡市の関係者の方々が登壇したほか、地域のデジタル推進に関わる専門家をパネリストにお呼びしました。

後さんは、「舞鶴市の課題として、企業の人手不足の解消には社会に出ていない人を採用しないといけない」と考えていました。
舞鶴市内の労働人口という現状では、地元企業内で人材を取り合っている状況で、今まで労働市場に入っていない人を採用していかないといけないことを課題感として持ち、あわせて女性が働きやすい仕事内容や職場環境を整えた会社作りを企業側へ問いかける必要性を感じていました。
子育て中の女性が短時間でも働けるように短時間勤務の制度を整えたり、雇用形態を幅広く考えたり、在宅で仕事ができるインフラ環境を整えるといった女性が働きやすい職場環境というものを目指す必要があります。

フォーラム開催時、後さんは「企業側に先進的な事例を知ってもらう必要である。事業所の中で女性でも働きやすい環境を整える働き方を考えてもらうきっかけになれば」という思いだったそうです。

このフォーラム開催を機に、舞鶴市内の事業者内でもより女性活躍の機運が高まってきました。

今は「女性×デジタル」という視点で人材を育成する講座を多数の自治体で実施されていますが、フォーラム開催の影響もあり、豊岡市ですでに実績がある講座をやったほうが確実だという結論に至り、ノヴィータへご相談いただきました。

事業者の人や男性の受講ニーズを把握し、対象者を広げる

舞鶴市産業振興部 産業活力課の後さんは、地域産業の活性化や、地元企業の支援、雇用促進など市の産業活力を高めるのが仕事です。
後さんは、積極的に舞鶴商工会議所商業部会に顔を出し、地元で事業をされている方のお話を聞きに行かれ、交流をはかっていました。

舞鶴市産業振興部産業活力課 課長 後 厚史さん

商業部会の人とお話をされる中で「デジタルマーケティングみたいなことをやってみたい」という話を聞いて、市内事業所の中でこういったスキルを学びたい人や、また経営者側でも「デジタルスキルを身に着けた人材が欲しい」というニーズがあると分かったそうです。

そこで、女性だけに特化するのではなく間口をひろげ、「市内在住で働きたい女性」のみならず「ネットビジネスに取り組む市内事業所の従業員の方」を対象に、性別関係なく受講できるようにしました。

舞鶴ならではの土壌

「舞鶴という地方都市で、デジタルマーケティングみたいなことをやっている人はあまりいないだろうなという思いもあったし、舞鶴市に居ながらデジタルの仕事が新しくできるとよりいいんじゃないかみたいな観点も持っていました」と話すのは後さん。商業部会でのつながりから、そのように感じていたそうです。

「デジタル×女性活躍を打ち出したところで、講座を受講したい方がいるのか不安ではなかったですか?」とご質問をしたところ、舞鶴では「team.m(チームエム)」の活動があるため、どなたかは反応を得られるのではという思惑をお持ちだったそうです。

転勤族のママ達を中心に、「せっかくいいスキルを持っているのに家に閉じこもっていてはもったいない」という思いから、舞鶴に転勤で来られたママ達を中心に構成されている団体が「team.m」です。

プロジェクトマネージャーが営業や仕事の切り分けを行い、ママ達へ仕事を依頼、登録している160人以上ものママ達がデジタルスキルを活用しながら仕事を対応しています。9割の仕事は在宅で完結しているそうで、月700件ほどの案件を抱え、株式会社化するほど成長。企業向けのサポート業務といったアウトソーシング事業をしたり、スキルを持つお母さんへ仕事を紹介したり、地域づくりへの貢献もされています。

舞鶴という土地柄、自衛官や海上保安官の旦那さんに帯同している奥様などがいらっしゃいます。その中には、元々すごいキャリアを持っている方や優秀な方もいらっしゃって、働きたい思いや、もっとスキルを伸ばしたいという思いをもっている方も多いそうです。

デジタルマーケティング講座の募集を開始したところ、実際に、team.mの関係者の方が反応してくださったというお話もお伺いしました。

インターンシップ受け入れにつながった「商業部会」の活動

「デジタルマーケティング講座」を開催するにあたっては、ただ受講生を募集するだけでなく、受講のその先である就労支援に結びつけたい思いがあります。
ここにも、舞鶴市ならではの土壌がありました。

舞鶴商工会議所商業部会では、ネット販売に取り組む地域の事業者がECに関する実践的なスキルを取得できる機会の提供や、ビジネス拡大できるようなサポート支援を行っています。

フォーラムにパネリストとして参加されていたお一人が、商業部会の会長である久下さんです。久下さんは、有限会社キクヅルにて着物レンタルのネットショップ運営をされているうえ、以前から商業部会主催で「ネットショップ(EC)運営勉強会」を開催されています。

また、商業部会の副部会長は、株式会社ウッディーハウスにてアパレル事業とECショップ運営をされている志摩さんで、勉強会の会社見学なども積極的に受け入れていらっしゃいます。

このように舞鶴市には、デジタルマーケティング講座を行う前からすでに、デジタル活用しネットビジネス事業で成功されている先駆者がいました。デジタルを使い事業をされている経験を、スキルを取得できる勉強会として、本来であればお金を払って教えてもらうほどの内容を、地元の事業者に提供していらっしゃいました。

そのような土壌があったため、後さんは、久下さん、志摩さんが代表を務める企業2社へ、「デジタルマーケティング講座」のインターンシップの受け入れを働きかけました。

久下さんの会社「キクヅル」、志摩さんの会社「ウッディーハウス」は、先にお伝えした通りすでにデジタルを活用されて事業を拡大されている企業です。インターン生に何をしてほしいか、受講したスキルをどう活かせるのかが見えていたことにより、インターン受け入れもスムーズにいきました。

一方、後さんがおっしゃるに、受入企業において「デジタルでできること」が見えていないと、インターンの受け入れが難しいそうです。

インターン先で「何をやってもらうか」を明確にマッチングができてこそ、インターン受け入れが実現でき、受講した講座のスキルを就労先で活かせるスキルになるという気づきになりました。

このお二人には、舞鶴市で企業向けに開催した「デジタルマーケティング講座」にもご登壇いただきました。ネットショップ(EC)運営勉強会の内容なども合わせて、別の記事で取材しています。

市役所関係者が「部署を超えてタッグを組んでいる」強み

舞鶴市役所の男女共同参画の担当者であった堂田さんは、子育て支援の一環として短時間子どもを預ける「一時預かり事業」を担当され、女性活躍推進への強い思いをもって今回、豊岡市のデジタルマーケティング講座の事例を知り、事業の実現に尽力されました。

一方、後さんは、地域経済の活性化や企業支援を担当している部署にて商業部会にも積極的に参加され、官民連携や地域企業同士の協力を促進するなどの取り組みをされていらっしゃいました。

このお二方が強力なタッグを組んだおかげで「デジタルマーケティング講座」の開催が実現できました。

堂田さんに当時のことをお聞きすると「産業振興部と連携できたから実現できた」とおっしゃっていました。元々お二人は同年代で、ざっくばらんな話ができる間柄でした。

その中で「デジタル活用人材」事業が舞鶴市にとっても、地元企業にとっても、働きたいと思っているお母さん方にとっても三方良しの事業にできると確信され、今回の講座を実現するに至りました。

堂田さんは、豊岡市へ視察に行かれた際に「産業経済系の部署と連携したほうがいい」というアドバイスをいただいています。

ただしそれだけでなく、大きなプロジェクトにも関わらず実現できた理由は、お互いにこれまで築き上げたキャリアや裁量もあり、「役職や部署を超えて、協力できる味方を見つけていて、支え合える関係性があった」ことです。

「個々で課題感を持っていても解決にいたらず閉塞感が起こる場合もあります。しかし連携することでもっとやれることがある」とおっしゃっていました。

舞鶴市の今後の展開

堂田さんに講座の評判についてお聞きしました。

「2023年から始めた舞鶴市「デジタルマーケティングを学ぶ講座」ですが、1年目は熱量高く終わりました。これを、2年目・3年目とどのように継続していくかが一番大変なところで課題感もあります」

「2年目に受講されている方の中には、講座内容はどんなことをやったのか見えなくて不安、私でも最後まで受講できるのか、というお声もあるのは事実です。広報のやり方を考えるところもありますが、やはり、受講生に実際に体験談をお話いただくことが一番伝わるし、リアルの感想だということが、振り返りをして感じたことだったので、どのように伝えていくかを考えているところです」

講座内容を分かりやすく市民に届けるために広報紙で取り上げるなどの工夫をされていました。また、実際に受講した方からの口コミ経由でのお問い合わせもあったそうです。
知っていただけるような活動を地道にやっていくしかありませんが、この講座が徐々に盛り上がって、舞鶴市が活性化できればという願いは常に持っています。

「舞鶴に戻る」が選択肢にあってほしい

舞鶴市は大学がないため、進学する若者が進学で市外へ出ていきます。その割合は8割。
どこの地方自治体でも抱える課題ですが、若者の回帰率が上がること、とくに若い女性の回帰率の低さが問題になっています。

堂田さんも後さんも、お子さんがいる親の立場として「舞鶴市に働く場所があれば、子ども達も戻ってくる可能性も高まるのではないか、もちろんそれぞれ子ども個人の自由だが、舞鶴に戻ることも選択肢にあってほしい」と願っておられました。

市役所勤務なので、男女関係なく子どもを持ってからも働ける環境づくりや、子育て中の女性がデジタルマーケティングのスキルを活かして在宅で働けたりと、地元企業の理解や整備面を進める活動を、市役所として頑張っていきたいとおっしゃっていました。

まちに土壌と成功事例があったこと、そして部署を超えた連携があったこと

今回は、「デジタルマーケティング講座」のことを中心として、舞鶴市役所の堂田さんと後さんにお話をお聞きしました。舞鶴市の土壌、デジタル活用や柔軟な働き方などにおける成功事例が既にあったこと、市役所内で部署を超えたお二人がタッグを組んで取り組まれてきたこと、などのお話をお聞きできました。

次回は、「デジタルマーケティング講座」の受講生のインターシップを受け入れてくださり、「企業向けデジタルマーケティングセミナー」にも登壇してくださった舞鶴商工会議所 商業部会の久下さん、志摩さんにもお話をお聞きしました。

違った角度からこの講座の意義について気付きが得られましたので、ぜひ次回もご覧ください。

 

 

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