「仕事中に言われて嬉しかったことなどを、『評価コメント集』というファイルにまとめています。ずっとPCの前にいるので手帳に書くよりテキストエディタで打ち込んだ方が早いんですよね」
現在ノヴィータでコーポレートセクレタリーとして活躍する松浦さんの業務は多岐に渡り、取材後の予定もみっしり詰まっているようだった。
松浦さんは社内情報システム・セキュリティ、新規事業のプロジェクトマネジメント、総務、会長の業務サポートなど、様々な役割を担当。フルフレックス、フルリモート体制勤務により、仕事と家族との生活を両立させている。
だが、こういった形で働き始める前には、実に9年の離職期間があった。
「振り返ると道ができていたという感じです」
「働き方の多様化」という声を聞いて久しい令和の世、不思議な縁に導かれノヴィータで働くことになった松浦さんの足跡をたどる。
松浦さんの「ノヴィータ以前」
新卒入社した外資メーカーに約7年勤めていた松浦さん。9年もの離職期間が発生した理由は、産休育休に加え、夫のイギリス駐在帯同だった。
帯同は最大5年の予定だったが夫のオランダ異動が決定し、想定外に帯同期間が延長。松浦さんは退職することに。
「休職関連制度も整っていたので、帰国したら復職するつもりでいました。でも帯同が延長されてしまって。退職が決まった後は拠り所がなくなったような喪失感がありました。『母』や『妻』という役割以外の自分が失われたように思ったのを覚えています」
いわゆる「駐在妻」として欧州にいた間には、インターナショナルスクールの日本人会幹事などさまざまなコミュニティで活躍。
帰国後、再就職活動を始めるが離職期間は空白期間とみなされてしまい、結果に結びつかない。「イチから再スタートしよう」と、ケーキ製造のアルバイトを始めた頃に、Facebook経由でメッセージを送ってきたのが中学高校時代の同級生、三好だった。
「もう10年近く会っていなかったけど、Facebookでは繋がっていたし近況も分かるので、帰国後『最近どうしてる?』と連絡をくれました。再就職の難しさなどを伝えると、三好さんは『一緒に何かやれないか考えておく』と言ってくれたんです。その後、実際にお声がけいただき、ノヴィータで携わる仕事が徐々に増えてきて今に至ります。『運命』だったなと思います」
根底に流れる責任感、使命感、向上心
まずは駆け足で松浦さんの経歴をまとめたが、短くまとめるには惜しいほど彼女は各時期にさまざまな結果を残している。駐在帯同期間には、「賃金が発生していないだけで、もはや仕事」と言えそうな濃密な活動が多い。取材時、特に印象深かったのがオランダ在住時のインターナショナルフェア参加経験だ。
「子供の学校で、保護者たちがそれぞれの国を紹介するイベントがありました。30カ国くらい参加しているんですけど日本ブースは何年も出ていなかったんです。
そこで、関係各所の意見をすり合わせ参加の合意をとりつけて、諸々の準備を進め出店しました。運営の方から『日本食は人気だからずっと出てもらいたいと思ってたよ。久々に日本ブースが出てくれて、めちゃくちゃ嬉しかった』と言ってもらえたんですよ。唐揚げなんて10分で完売してました(笑)」
合意形成のためのすりあわせ、折衝、タスク分担、物資調達、スケジュール管理など、業務として経験する人も多いだろう。しかし、日本の就職活動では「企業に所属していない時期」は評価されないケースが多い。帯同中にはさまざまなソフトスキルが磨かれていたものの帰国後の再就職活動は難航。
松浦さんはたまたま見かけた近所のケーキ製造パートへ応募することに。
「一旦ケーキ屋さんでパートを始めたのは異色のキャリアと言われることもありますが、その時その時で自分の気持ちに正直に向き合った結果なんですよね。『社会人一年生のつもりでイチから働き始めよう』『時間が限られた中でも吸収できるものは全部吸収しよう』とレシピも全部暗記するほどの意気込みで臨んだ結果、それまでのパートでは担当できなかった種類のケーキ製造まで任せられることもありました」
松浦さんの話から一貫して伝わってくるのは強い責任感、使命感、向上心だ。
「自分がリードしてイベントに参加しよう」「パートでも積極的に学んでいこう」「誰もいないなら私がやらなきゃ」
そういった姿勢は昔から変わらなかったようだ。
松浦さんの帰国を知りメッセージを送った三好は、高校時代、一緒にボランティア活動をしていたこともある彼女の真面目さをずっと記憶していた。「松浦さんなら何かやってくれそう」という信頼感を持ってノヴィータに誘ったのだという。
秘めたマネジメント力を発揮し、業務範囲を拡大
かくしてノヴィータとの縁が生まれた松浦さんが最初に参加したのは、駐在妻の帰国後再就職支援「CAREER MARK」が事業化する前のプロジェクトチームだった。
現在でも松浦さんはこの事業でプロジェクトマネジメントを担当しているが、2年前の参加当時に、このポジションは存在しなかった。プロジェクトを立ち上げたばかりで他メンバーも特に担当業務が明確に決まっていたわけではない。
松浦さん以外にも駐在妻経験があるメンバーが参画し、豊かな発想力と意欲の元、多数のアイデアが生み出され各種企画が動いていく。しかし、「ふわっと」なんとなく業務が進んでいく……。
「みんなすごくいいアイデアをポンポン出して、企画力や実行力はすごいんです。ただ、進めていく中で、『そういえばこのタスクも必要なのでは?』など、細かいタスクや担当者の確認漏れが打ち合わせ後に五月雨に発生しているのを不安に感じました。」
そこで松浦さんが用意したのは、外資メーカー時代、毎日のように触れ、慣れ親しんだガントチャートだった。
「それまでは『点はあるけど線がない』という感じだったので、企画実行までの道筋を整えました。各業務をカテゴリ分けして、それぞれ『何月何日までに誰がやろうね』と、タスクやスケジュールを可視化すると、みんなの目線を合わせやすくなります。納期が決まっていないと動きにくい私にとって、ガントチャートを作るのは当たり前のことだったんですが、想像以上に評価してもらえました。人それぞれ得意分野が違うので、自分では特別視していないスキルでも、場所やメンバー次第では特別なスキルになることがある。これもすごくいい気づきでした」
これをきっかけに、松浦さんは会長の業務サポート職も担当することに。
会長サポートではスピード感が非常に重要で、タイトなスケジュールの中で200件ものメール送付代行やリスト作成をしたり、時にはFAXや架電をすることもあった。プロジェクトマネジメントとは全く異なる、インサイドセールスのような業務とも言える。
更に現在では社内情報システム・セキュリティも担当。
社員用アカウント管理やヘルプデスク、導入検討ツールの調査や社内セキュリティルール運用体制確認、内部監査など……その業務内容はここには全て書き切れないほどだ。
また、最近ではプログラミングの勉強も始めているらしい。限りない向上心が窺える。
当初はケーキ製造とノヴィータでの業務を並行していた松浦さんだったが、今は仕事をノヴィータ一本に絞り、多彩な業務を進めている。
毎日「9マスジャンプ」できる柔軟性
「今の私は、会長や社長という役職ある方との仕事もあれば、一方では情報セキュリティとして会社全体を見る仕事があり、かつ新規事業も担当しているなど、いろんな役割があるんです。私の中ではしょっちゅう9マスぐらいの中を縦横斜めにジャンプしてるような日々なんですよね。こうして多種多様な仕事をする際、必要なのは『相手に応じて対応方法を変えること』です。」
「たとえば会長サポートのようなスピード感が求められる場合、何か依頼された時に一から十まで全部を細かく確認しているともう追いつけない。とりあえず話を受けてから自分で咀嚼して、後から『これでいいですか』と確認したり。セキュリティやプロジェクトマネジメントでは仕事の進め方は異なります。『相手や状況に応じてやり方を変える、自分の見せ方や相手からの受け方を変える』のは特に意識してやっています」
生来の実直さや責任感に加え、松浦さんの強力な個性となっているのがこの柔軟性だ。
これは、同じような価値観で動く一つのコミュニティにしか所属していないと、なかなか養われない。
「仕事は同じ使命感を持って同じ責任のもとみんな動くので逆にやりやすいところがあるんですよね。仕事とは全く別の、保護者や地域のコミュニティでは共通の目標が用意されているわけではないし、『イベントなんてそんなにがんばりたくない』と考える人もいます。その中で自分の目標を叶えるため、先程話したように対応方法を変えて『自分を切り替える機会』が多かったから次第に柔軟性が養われていったのかもしれません。ヨーロッパ滞在中にアジア人である私はマイノリティでした。日本人としてのアイデンティティは大事にしつつ、文化も慣習も価値観も異なる環境に自分自身を順応させながら生活した経験も大きかったですね」
性格とスキルが「今」を引き寄せ、道ができていた
松浦さんの道のりを振り返ると、生来の性格に加え、後天的に身に着けたハードスキルやソフトスキルがさまざまな仕事を引き寄せ、現在に至ったという印象を受ける。ノヴィータにジョインした経緯は「同級生だった社長から声をかけられる」という珍しいケースであるものの、中高時代、周囲に見せていた真面目さや行動力がなければその運命的出会いは生まれなかっただろう。
その「運命」は一過性のもので終わらず、先へと続いていく「道」に変化していく。それを支えているのは松浦さんがこれまでに身に着けてきた管理力や柔軟性に他ならない。「今の上司から『松浦さんほど三面六臂でマルチタスクをこなせる人もそうそういない。いろんな人から引っ張りだこで、人気者になっちゃうんですよね』と週次定例会議で言ってもらえたことがあって、自信のもとになっています。これはとても嬉しかったので評価コメント集にすぐさま記録しました」
「働き方が多様化した」とは、最早聞き飽きた現在。
生き方も働き方も多様化する中、自分と似たようなキャリアを歩んできたロールモデルがいなくとも、目の前にあるチャンスをつかめば自分の強みを活かして働いていくことができるのだ。
「前向きにチャレンジしていけば道を切り拓いていける」……これも最早聞き飽きた表現かもしれない。しかし、松浦さんほどこの文章を体現している人もそうそういない。
離職期間何するものぞ……松浦さんのお話から、何事にも積極的に挑戦していく勇気をもらえたように感じた。
(インタビュー・文 石林グミ)
仲間を求めています! 募集中の職種はこちらから(Wantedly)